お酒を飲んだ夜、いい雰囲気になってそのままホテルに行くというシチュエーションは多いものです。
そんなとき、どこかで「相手の真意がよく分からないけど、まあ大丈夫か」と判断を曖昧にした経験はありませんか?
キロクの確認項目の3つ目「多量のお酒を飲んでいたり、判断力に影響が出るほどの薬を服用したりしていませんか?」は、その「まあ大丈夫」という感覚が本当に大丈夫かどうかを、もう一度立ち止まって確かめるためのものです。
ここでは、その確認の重要性について、一緒にみてきましょう。
「一杯でも飲んだらNG」とは限らない
性行為の同意・不同意を考えるうえで、「お酒を飲んでいたらセックスはしてはいけないの?」と受け取ると、実生活ではかなり行動が制限されてしまいますよね。
ここで重要なのは、飲酒や服薬の事実そのものではなく、「判断力に影響が出ているかどうか」という状態です。
第2回で障害や持病を抱えた人の性的同意について解説した際にも触れましたが、属性や事実ではなく、その瞬間にどういう状態だったかが一番のポイントということになります。
だから、お酒にものすごく強い人であれば、10杯飲んだ後でも性的同意について問題なく判断できることも十分に考えられます。
逆に、お酒に弱い人の場合は、普通の人なら「ほろ酔いになる」程度の量のお酒でも、泥酔状態になってしまうかもしれません。
服薬についても同じことがいえて、「絶対にOK」「絶対にNG」という境界はどうしても定義できないのです。
刑法が「状態」を基準にしているのはなぜ?
2023年施行の改正刑法(不同意性交等罪)は、同意が成立しない状態の一つとして、「アルコール又は薬物の影響によって、性交等に係る判断をするに至ることができない状態」を明示しました。
しかし、この法律すらも「何杯以上飲んだら同意無効」という量の基準を設けてはいません。
これは法律のミスや見落としではなく、意図的なものだと考えられます。
キロクの監修弁護士も「お酒に対する耐性は人によって異なりますので、一概にこの量を飲酒すると同意なしとなるとは明言できません」と説明しています。
人によって、同じ量の飲酒でも判断力への影響はまったく異なります。
だからこそ、キロクの確認項目だけでなく、法律自体も「量」ではなく「状態」を問うという仕組みになっているのです。
そしてその分、実際の判断が難しいのも事実です。
判断力が下がっているかどうかの見分け方
では、その「判断力に影響が出ている状態かどうか」を、行為の前にどうやって見極めればいいのでしょうか?
実は、判断力が落ちたときにどういう言動をとるかすらも人それぞれ違うので、絶対的な基準を決めるのは難しいのですが、ある程度の目安はあります。
まず注目すべきなのが、言動の一貫性。
会話が噛み合わない、少し前と言っていることが矛盾している、質問に対しての答えが「うん」「たぶん」など単純すぎる、といった状態。
これだと、認知機能が通常通りに働いていない可能性があります。
そして、もうひとつの重要なサインが、身体のぎこちなさです。
ろれつが回らない、足取りがおぼつかない、目の焦点が定まっていないという人は、身体能力と同時に判断力も落ちていることが多いです。
極めつけが、「今、本当に大丈夫?」と尋ねたとき、自分の言葉で落ち着いて答えられるかどうかです。
「大丈夫」「本当だよ」という答えしかできないなら、無意識でオウム返しをしているだけかもしれません。
「寝ている人に話しかけると、会話らしきものが成り立つことがある」という雑学をご存じですか?
これはちゃんと思考しているのではなく、人間は寝ぼけながらでもそれっぽい相槌を返せてしまうからです。
飲酒や服薬でぼんやりしているときでも、まったく同じです。
なぜ大丈夫か、どう大丈夫かを自分の言葉で明確に説明できていれば安心ですが、酩酊状態のときのオウム返し的な「大丈夫」はあまり信用できません。
迷ったときの最適解は「しばらく待つ」
どこまで行っても「人それぞれ」で完璧に見分けることが難しいからこそ、性的同意に迷ったときは、ひとつの指針を持っておくとよいでしょう。
最適解のひとつは「大丈夫かどうかわからなければ、待つ」です。
逆に「明らかにNGとまではいえないから、いいだろう」という考え方は危険です。
だからといって、飲んだ後の一夜を絶対に避ける必要はなく、お酒や薬の影響が弱まるまで待てばいいのです。
たとえ法律で罰せられるほどの事態にならなくても、判断力が低下した状態で性行為をしたことにより、人間関係に亀裂が入ってしまう人はたくさんいます。
数時間待つことのコストと、その先に進むことのリスクを比べることで、答えがかなりシンプルに感じられるかもしれませんね。
直感的な不安を大切にしよう
「大丈夫かどうか分からない」と一瞬でも感じたら、それは無視してはいけません。
お酒や薬の影響は時間が解決しますが、あのとき確認すればよかったという後悔は、簡単には消えないものです。
しばらく待ってから確認することで相手を尊重できますし、そうやって相手を尊重することは、お互いの関係性を守ることにもつながるでしょう。

